東京地方裁判所 昭和38年(ワ)9931号 判決
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【判決理由】二、被告が講談社の提示した図面に基き、対価を得て本件展示器を製造し、これを同社に納入したことは、被告の自認するところであるが、被告はこの行為に当らない旨主張する。
しかし、対価を得て製造、納入する行為がたとえ法律上売買にあたらず、請負にすぎないと評価されようとも、意匠法第二条第三項にいう「譲渡」は、等価を得て製造、納入する行為をも包含するものと解するのが相当であるから、被告の主張は採用することができない。
三、そこで、まず、本意匠(本件登録意匠)と本件展示器の意匠との類否について検討する。
(一) 本意匠の形状および模様
成立に争いのない甲第一号証(本意匠の公報)によれば、本意匠は、書籍架置部を支持脚によつて支持し、書籍架置部の上部に細い支持棒によつて表示部をとりつけた三部分より成るもので、
イ、支持脚部は、縦棒状の支柱の下端に平面形および底面形において開角各一二〇度の三方向に支柱に直角に三本の脚が接続され、その三本の脚は、先端寄りの部分が下方垂直に曲がり、その先端に自在車がとりつけられており、
ロ、書籍架置部は、中心軸を四角形柱状にし、これを中心としてその四側面に各直角方向に縦長の矩形枠をはり出し、その各矩形枠は、横幅が中心軸の四角形柱の幅のほぼ三倍で、端面は板状となり、この外側板の幅は、中心軸の四角形柱と同幅となり、矩形枠の内側を上下一〇段に分割して、その分割部上部の両側縁に細い横棒を平行に渡し、そのやや下部に中心軸の四角形柱と外側板の内側に、外側板の幅よりやや狭い幅から書籍受皿を渡し、その受皿は、底面が板状で両側面は幅狭く傾斜しており、
ハ、表示部は、細い縦棒状の支持棒の上に半円形をやや長くした薄板状のものを弦部を接合して等開角の三方向に開いた形に取りつけ、その各薄板の上方部と表示部の中心軸の上端に、小さな球形頭部をとりつけてなる短い旗竿状の棒を立てており、
これらの形状および模様の結合を表現するものであることが認められる。
(二) 本件展示器の意匠
別紙第二目録記載の図面と(証拠―省略)を総合すると、次の事実が認められる。
本件展示器の意匠は、書籍架置部を支持脚によつて支持してなるものであつて、
イ、支持脚部は、縦棒状の支柱上部から等開角三方向に斜下方に脚を接続し、その各先端が垂直下方に曲り、その先端に自在車が設けられ、縦棒状の下端部と垂直下方に曲つた脚の先端部との間に細い補強棒が渡してあり、
ロ、書籍架置部は、支持脚上に横断面が隅切り四角形(全体として八角形)の柱状の中心軸を立て、これを中心としてその四側面の各直角方向に縦長の矩形枠を出し、その各枠の幅は、その四側面の各幅よりやや長く、端面は板状の外側板をなし、その幅は中心軸の柱の幅のほぼ二、五分の一の長さとなり、枠の内側を上部にやや余裕をもたせて上下八段に分割して、その分割部の上部両側縁にやや細い横棒を水平、平行に渡し、この横棒に書籍受器をかけたもので、その受器は、ほぼ四角形にした両側面とその幅のほぼ二分の一の幅をもつ底板からなる逆台形板からなり、その上縁を内側下方に曲げて前記横棒に架けている。
以上の認定に反する前記乙第一〇号証の記載部分は採用できない。
(三) 両者の対比
そこで、本意匠(以下「甲」という。)と本件展示器の意匠(以下「乙」という。)とを対比検討すると、
イ、まず支持脚の部分は、甲の支持脚が、縦棒状の支柱の下端に直角に接続されているのに対し、乙のそれは、縦棒状の支柱の上部から斜下方に「支柱に直角ではない)接続されている点と、乙には甲にない補強棒が存する点において差異があり、支持脚全体としての形状は著るしく相違する。
ロ、書籍架置部は、甲の中心軸の柱が正背面形および左右側面形において全然あらわれていないのに反し、乙のそれは隅切り四角形の隅切りの部分が同形において顕著に現われている点と、書籍受器(受皿)が甲において極めて背の低いもので、しかも横棒とは無関係であるのに対し、乙のそれは、横棒に架着され、その上下横棒間一杯に設けられている点において、差異がある。
ハ、更に、表示部については、甲には極めて特異な形態をした表示部があるのに反し、乙には表示部に相当するものが全然なく、この点において極めて著るしい相違がある。
してみると、甲と乙とは書籍架置部においてその中心軸より四側面に各直角方向に縦長の矩形枠をはり出し、その端面が板状の外側板をなしている点にその類似点を見出すことができるけれども、両者にはさきに指摘した幾つかの相違点があつて、これを含めて全体として甲乙を観察するときは、意匠全体としての表現態様は、著るしく相違するものといわなければならない。したがつて、観る者に与える審美感は両者全く別異であるということができるから、本件展示器の意匠は、本意匠に類似しないものというべきである。
四、原告は、本意匠の要部は、書籍架置部にあり、その要部さえ類似していれば意匠全体としても類似することになると主張するが、(証拠―省略)を総合すると、書籍架置部が本意匠に類似する三個の枠体を備える回転書籍展示器が本意匠の登録出願以前である昭和二八、九年ころすでに一般に使用されていたこと、昭和三四年五月当時、講談社の注文により原告から同社に納入された回転書籍展示器に本意匠と極めて類似する書籍架置部が設けられていたことが認められ、この認定に反する原告本人の供述部分はにわかに信用できない。したがつて、本意匠の書籍架置部がその要部であると認めるわけにはいかないから、原告の主張は採用の限りでない。
なお、原告は、本件展示器に酷似する意匠が本意匠の類似意匠として登録されたことは、本件展示器の意匠が本意匠に類似する証左である旨主張するが、本件展示器の意匠が類似意匠と同一であるというなら格別、類似意匠に類似するというのみでは、直ちに本件展示器の意匠が本意匠に類似する証左とはし難い。のみならず、成立に争いのない甲第一二号証(類似意匠の公報)記載の図面と本件展示器の意匠とを対比してみても、両者が同一であるとは到底認め難いから、原告のこの主張もまた採用するわけにはいかない。 (古関敏正 水田耕一 野沢明)